「自分の身体を自分の思い通りにするとは」No.7

こんにちは。アスレティックトレーナーの岡野です。

今回は、私がアスレティックトレーナーとしてアスリートを相手にトレーニング指導をする時に、どのように身体を捉えているのか/考えているかというのをまとめていきたいと思います。

というのも、トレーナーという職業は一括りになっていますが、所有している資格や働いている場所、携わってきた人や競技、経験などトレーナーそれぞれにバックグラウンドがあり、トレーナーによってできること/できないこと、得意なこと/苦手なことがさまざまで、人によって考え方や捉え方、視点などが変わってきます。

例えば、トレーニング指導ができるといっても、

  • アスリートに対してパフォーマンス向上を目的としたトレーニング指導
  • 身体に痛みがある人に対して、痛みの軽減や痛みの根本的な原因を改善することを目的としたトレーニング指導
  • 一般の方に対してダイエットやボディメイクといったような身体の形態の変化を目的としたトレーニング指導
  • 高齢者を相手に健康の維持を目的としたトレーニング指導

というように対象と目的、活動レベルによって、求められるトレーニング指導が変わってきます。それぞれに応じて優先すべきことやアプローチ方法が変わってくるのでトレーナーの考え方や捉え方にも色が出やすいです。

もちろん、誰を対象としても大本を辿れば解剖学や生理学といった知識がベースになってきますが、前回のブログでもお伝えした通り目的地と現在地によってアプローチ方法が変わってくるので、トレーナーをお探しの方は自分の目的を達成するのに適したトレーナーを見つけるのが一番です。

そこで今回は、2021年現在の私がトレーニング指導をする時の身体の捉え方や考え方というものをまとめていき、nomaではアスリートに対してどんな考えでトレーニングを行なっていおるのかというのを少しでも知っていただけたらと思います。(トレーナーの経歴などはこちらをご覧ください。)

アスリートに必要なフィジカル能力とは

私は、日本スポーツ協会公認アスレティックトレーナー(JSPO-AT)という資格を保有しており、今までアスリートのトレーニング指導を行う機会が多かったです。

アスリートを相手にしたトレーニング指導で求められることは大きく分けて3つあり、

  • パフォーマンス向上
  • 傷害予防
  • ケガからの早期復帰(リハビリ)

となります。それぞれ目標や指導方法、プログラムなどは変わってきますが、アスリートの最終目標としては「試合に勝つために」練習やトレーニングがあるので、個人的にはこの3つはスタートこそ違うだけで、最終的なゴールは一緒になると考えています。

そこで、アスレティックトレーナーとして試合で勝つために必要なフィジカル能力を向上をしていく中で、最終的にどうしたらパフォーマンスの向上や傷害予防に繋がるかを考えているかというと、

「自分の身体を自分の思い通りに動かせる範囲を広げていく

ということでした。

私は身体を思い通りに動かせる範囲は3つの要素が関係していると考えています。

  1. 身体が本来動く範囲(関節の可動域や筋力、持久系の能力といった解剖学や生理学的に可能な動かせる範囲)
  2. 今の現状で動ける範囲(疲労や痛みなどのコンディションによって生まれる動かせる範囲)
  3. 自分の思い通りにコントロールできる範囲(1と2を踏まえて自分がコントロールできる範囲)

といったように分かれていて、競技やレベルによって求められるフィジカル能力は変わってきますが、どの競技でも最終的には自分の思い通りに身体が動かせる範囲が大きくならないとパフォーマンス向上や傷害予防には繋がっていかないんじゃないかと思います。

なぜ、自分の思い通りに動かせる範囲が大きくならないとパフォーマンス向上や傷害予防に繋がってこないのかというと、個人的には身体を思い通りに動かせるということは、1つ1つのプレーにおける「動きの再現性」と「動きの選択肢」が変わってくると考えています。

「動きの再現性」というのは、どの競技でも勝つためには高いレベルでの動きの再現性が求められることが多いです。陸上や水泳といった比較的同じ動作が繰り返される循環運動の競技でも、野球のピッチャーが投げるボール、バドミントンのショット、サッカーやバスケ競技などのシュートやパスなどその時々で動作が変わる非循環運動の競技でも(循環運動と非循環運動を組み合わせた運動でも)、どの競技も理想のプレー(動作)を質高く再現できるかが勝敗の左右を分けることが多いです。この理想のプレーができないと、プレーのミスに繋がることも多く不利な展開になることが多いかと思います。

ですが、プレーする内容(動き)は一緒でも、自分のコンディションや姿勢、対戦する相手のプレー内容やレベル、試合会場、天候などその時々で条件は違ったりします。そんな毎回違う条件や環境でも自分が思う理想の動きを再現できるよう自分の身体をコントロールしなくてはいけないので、フィジカルの視点で考えると筋力や可動性といった能力ももちろん大切ですが、外部環境や色々な条件下でも動作を調整できるように自分の身体を自分の思い通りに動かせる範囲を広くしておくと再現性は高まるのではないかと思います。

「動きの選択肢」というのは、「どちらにも、どこにでも動ける状態を作る」ということです。先ほどは、毎回違う条件や環境でも自分が思う理想の動きを再現できることが良いといいましたが、アスリートとしてもう1つ大切な要素が理想とする結果を達成するために動きの選択肢があることが良いと考えています。

野球での送球、バドミントンのショット、サッカーやバスケでのシュートやパスなど、毎回自分のリズムや体勢でプレーできることは多くはありません。そんな状況の中、アウトにする。点数を決める。アシストする。といったプレーの目的を達成する為には動きの再現性と同じぐらい動きの選択肢があるということが大切だと考えています。

「Aしかできない」のと「AもBもCもできる」だとプレーの選択肢が変わってくると思います。「この選手はこの体勢からだとこの動きしかできない」だと、それだけで不利になることもあるかと思いますが、「この選手はこの体勢でもこれもできるし、これもできる」だとプレーする上で不利にはならないと思います。頭の中では「AもBもCもある」のにフィジカルの能力としては「Aしかできない」というケースは技術的なことだけが課題ではないはずです。

こういった理由から、アスリートとして勝つためにフィジカルの視点でどうしたらよいかと考えると私は「動きの再現性」を高め、「動きの選択肢」を増やす為に、自分の身体を自分の思った通りに動かせる範囲を広げることが必要だと思います。

自分の身体を自分が思ったように動かせないとどうなるか

「①身体が本来動く範囲」と「③身体を思い通りに動かせる範囲」がそれぞれプレーに必要な範囲に対してどのぐらいの範囲を覆えているかによって行えるパフォーマンスレベルやケガの発生率というものが変わってくると考えています。

1.そもそも「①身体が本来動く範囲」が狭い

いくら自分の身体を自分の思い通り動かせることができていて、身体の使い方が上手な選手でも「①身体が本来動く範囲」が狭ければできる動きに限度があります。高い筋出力や正しい関節の可動域がなければできない動きというは存在すると思います。これはF1のレーサーが普通の乗用車でF1のレースにでるようなものです。いくらドライバーが優秀でも乗ってる車の速度が出なければ試合に勝てません。できる動きを広げる為には、まずはそもそもの筋力や可動性といった「①身体が本来動く範囲」をしっかり広げることが大切です。

「①身体が本来動く範囲」が狭く、目的のプレーがその範囲以上に必要な場合(図の黄色の範囲)、ほとんどの場合は、目的とする動作ができないか、身体に過剰な負荷がかかったり、非効率的な動きをして目的のプレーを行うのでケガをしやすいということがあります。「①身体が本来動く範囲」ができる動きの可能性や幅を広げるので、「③身体を思い通りに動かせる範囲」を広げる為には正しいウエイトトレーニングなどをして「①身体が本来動く範囲」を広くすることも大切となってきます。

2.「①身体が本来動く範囲」は広いが、「③身体を思い通りに動かせる範囲」が狭い

あらゆるスポーツでは、競技動作で対象物(人、物、地面)に適切に力を伝えたり、力を吸収する必要があります。対人競技なら接触プレーや打撃時に。球技種目なら、自分の身体や道具(バットやラケット)などを使ってボールに力を伝えたり、吸収する時に。走る時や方向転換、切り返し動作なら地面に。目的とするプレーを行う場合、外部環境や色々な条件下でそれぞれ正しい方向と強さで力をコントロールすることが大切です。

ですが、「①身体が本来動く範囲」は広いが、「③身体を思い通りに動かせる範囲」が狭いと、目的のプレーが①と③の中間にある場合(図の黄色の範囲)、対象物に適切に力を伝えたり、力を吸収することができない場合があります。プレーとしては完結できていても適切に力をコントロールすることができていなく、「動きの再現性」が低くなる可能性があります。そうなってくると身体がブレたり、自分がイメージしている動きと、実際に行っている動きとで差が生まれたりして、プレーの正確性が高くなりづらくなる要因の1つとなる可能性があります。

また、この場合本来は過剰に動かなくてよい筋肉や関節が動いて不必要に力を発揮したり、力のロスに繋がり競技動作として非効率的な動きになっている可能性があります。これらの非効率的な動きは、特定の関節や筋肉などを使ってしまうので「動きの選択肢」が広がらなかったり、特定の部位に負荷を集中させてしまう為、ケガに繋がったりする原因となります。

3.「①身体が本来動く範囲」も広いが、「③身体を思い通りに動かせる範囲」も広い

これが一番アスリートのフィジカル面で向上させていくにあたって理想的だと考えています。効率的な動作のまま強度の高い動作も行えることが大切です。なので、アスリートのトレーニングを考える時には「どうしたら自分の身体を自分の思い通りに動かすことができるか」というところから逆算して、「①身体が本来動く範囲」が必要な割合が多いのか、「③身体を思い通りに動かせる範囲」が必要な割合が多いのか、どれを先に行っていくべきかなど、今必要なトレーニングというのを考える必要があると考えています。もちろん、その時のコンディションによって③の範囲は変わってくるので、日々のコンディショニングも大切となってきます。

結局、自分の身体を自分の思い通りに動かすとは?

ここまで、アスリートが勝つ為に最終的にどうしたらパフォーマンスの向上や傷害予防に繋がるかを考えていくと、「自分の身体を自分の思い通りに動かせる範囲を広げていく」ことが大切で、それが競技にどのように繋がっていくのか、思い通りに動かせる範囲が狭いとどんな影響があるかといったことをお伝えしてきました。

ここからは「自分の身体を自分の思い通りに動かす」と言葉で説明していますが、じゃあ具体的になにが必要なの?自分の身体を思い通りに動かすとはどういうこと?というのを考えていきたいと思います。

自分の身体を自分の思い通りに動かすということは、「身体を動かすにあたって目的に適した運動を身体の内部環境や外部環境に応じて無駄な緊張をせずに適した力の発揮と吸収ができること」だと私は思います。これが効率的な動きに繋がり、1つ1つのプレーにおける「動きの再現性」と「動きの選択肢」へと繋がってくるのではないかと考えています。

自分の身体を自分の思い通りに動かせない人はどんな特徴があるかというと

  • 身体が過度に緊張している人(首や肩、背中などの筋のスイッチが常にONになっている)
  • 運動するときに、不必要な筋肉で身体を固めている人(腹圧がコントロールできていない)
  • 姿勢が悪い人(特定の関節や筋肉を動きのなかで使うことが多い)
  • 横隔膜を使って呼吸ができていない。息をしっかり吐けない人
  • 偏った重心位置で活動することが多い人、重心移動が苦手な人
  • 特定のシステム(運動連鎖)で行動している人

などがあり、こういった特徴がある人はウエイトトレーニングやストレッチなどを行っても自分の身体を自分の思い通りに動かせる範囲というもがなかなか広がっていかないことが多いです。

そういった人に対しては、

  1. 身体がリラックスすべき時に身体の力を適切に抜ける
  2. 身体の「揺らぎ」が確保されている
  3. 動作中、重心を中心軸から動かさずに安定して動けるか

ということができていないことが多いので、こういった要素を向上させるようにトレーニングでもアプローチすることが大切だと私は考えています。

①身体がリラックスすべき時に身体の力を適切に抜ける

不良な姿勢になっていたり、運動するときに不必要な筋肉で身体を固めている場合は、そこまで必要ではない筋肉が重力などの外部環境や動きのなかでの姿勢を維持する為に常に働いていて、姿勢の維持や動きの中で身体を安定させる為に筋肉が常に緊張していることがあります。こういった場合は、本来姿勢を維持する為に必要な筋肉や身体のシステムが使えていないことで多く、現状使える筋肉やシステムだけで動作を行うことが多くなります。そうした時間や頻度が増えていくと日常的に同じような姿勢をとることに繋がっていくので、結果的にリラックスすべき時にも常に筋肉が緊張している状態が続いてしまいます。(身体としてみればそれしか動きの選択肢がないからです)

これは、マッサージやストレッチなどをしても一時的には良くなることもありますが根本的な解決にはなりません。

日常的にストレスを抱えていたり睡眠不足や栄養不足などが理由で身体が常に緊張してしまうこともありますし、根本的な解決の為には、本来姿勢を維持したり、動きの中で身体を安定させる為に必要な筋肉やシステムが働くように身体が使う筋肉や動きを学習することが大切になってきます。本来働くべき筋肉やシステムが働けるようにしないといつまで経っても身体を支えてくれるのはいつもの筋肉やシステムなので、悪い連鎖から抜け出せません。

リラックスすべき筋肉が適切に力を抜けるように、本来働くべき筋肉やシステムが働けるようになっていくと少しずつ自分の動きをコントロールできるようになってきます。

②身体の「揺らぎ」が確保されている

ヒトの身体の中にはたくさんの「揺らぎ」があり、「リズム」があり、「波」があります。

ヒトのなかにある揺らぎやリズム、波の例

例えば、重心の位置を考えてみると前と後ろ、右と左、上と下というように重心の位置が揺らぐ範囲がそれぞれあります。関節の可動域も、例えば肩の屈曲や伸展、内旋・外旋、内転・外転などそれぞれ対になる揺らぐべきものが存在します。これらが特定の位置で留まっていると動きとしての自由度が狭まりますし、特定の位置で留まっているということは特定の筋肉やシステムのみを使うことが多くなり、結果的に不必要な関節や筋肉、システムで姿勢を維持したり、運動をしたりすることに繋がってしまい、特定の部位への負荷が高まります。

こういう状態にならない為には、特定の位置の状態に留まらず、振り子のように「どちらにも行ける状態」を作ることが大切です。「どちらにも行ける状態」を作るというのが「動きの選択肢」を作ることに繋がってきます。

③動作中、重心を中心軸から動かさずに安定して動けるか

ハイパフォーマンスをするアスリートに共通することと言えば、身体の重心が中心軸からなるべく外れないようにすることができている選手が多く、身体がブレなかったり、対象物に適切に力を伝えたり、力を吸収することが上手い選手が多いです。こういう選手は運動連鎖や地面反力といったものをうまく捉えていることが多く、動作を筋力で強引になんとかしようとせず、適度に力が抜けて動けている選手が多い印象があります。

そういった選手は、身体の「揺らぎ」というものが適切に確保されていることが多いです。「どちらにでもいける」からこそ適切な動きが選択できることが多いので、特に股関節や胸郭の可動域や体幹の腹圧が適切に確保されていることが重要です。その上で適切な力を発揮、吸収する為に必要な方向や強さ、タイミングといった動作を学習することで、しっかりとした身体のコントロールをすることができるようになってきます。

まとめ

今回は、私がアスリートに対してどんな考えをもってアプローチをしているかというのを説明してきました。最終的には「自分の身体を自分の思い通りに動かす」にはたくさんの要素を考えなくてはいけませんし、こうやって考えをまとめるのも難しかったですが、それだけアスリートというのは複雑な動きを自分の中でコントロールする必要があるんだなとしみじみ思いました。今回はあくまで考え方がメインでしたが、今後は「自分の身体を自分の思い通りに動かす」ためにどんな方法を用いているのかということもまとめていきたいと思います。

nomaではこのような身体の捉え方をして、パーソナルトレーニングを行っています。生活習慣や動作習慣への介入も含めて、パフォーマンス向上やケガのリハビリ、予防を目的にトレーニングを中心として身体のアプローチをご提案させていただきます。ご興味を持っていただけた方は、下記から予約ができます。

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