「体幹トレーニング再考- 呼吸の視点から体幹機能を考える2-」No.18

こんにちは!アスレティックトレーナーの岡野です。

前回から、呼吸がどのように体幹機能や姿勢に影響を及ぼしているか。どのような考えで「体幹トレーニング」を考えたらいいかをまとめています。

「体幹トレーニング再考- 呼吸の視点から体幹機能を考える1-」No.17

ただし、呼吸と体幹の関係性を話す前に、そもそも「体幹ってなんぞや?」というところが整理できていないといけないなぁと思ったので、

  • 体幹の定義:「脊柱・胸郭・骨盤を含む体幹全体」
  • 体幹の役割:①姿勢の保持、②脊柱の運動、③四肢の動きの土台となる、④四肢への動きを伝達する
  • 体幹が機能するとはどういうことか

といったような体幹の基礎知識をまとめさせていただきました。

その中で、体幹を機能させるには、体幹を固定(安定)させる必要があると説明しました。

姿勢を保ったり、動いたりする時の腰椎の不安定な構造を補うために体幹で固定(安定)させる必要があり、腰椎を体幹の機能で固定することによって効率良い動きをするための土台ができ、パフォーマンスや傷害の予防に繋がります。

体幹を固定(安定)するための方法は大きく3つあり、

  1. 腹直筋などのお腹の筋肉を意図的に収縮させる
  2. 脊柱起立筋などの筋を過度に緊張させる
  3. 腹腔内圧を円柱のユニットで高める

といった方法がありますが、基本的には「3」の方法で固定できると、身体的には効率が良いです。

ですが、呼吸機能が乱れている人は、「3」の方法で固めることが難しくなり、日常生活やスポーツ場面で「2」の方法でしか体幹を固定でいないことが多くなります。そうなってしまうと身体への負担が多くなり、パフォーマンスの低下やケガに繋がってきてしまいます。

そこで、今回は、「3」の方法を深掘りし、どうしたら腹腔内圧で体幹をコントロールできるのか、呼吸機能と腹腔内圧がどのように関わっているのか、といったことを説明していきたいと思います。

せっかく体幹機能を向上させたい!と思って体幹トレーニングを行っても、正しく「体幹」が使えていないと目的に対してのトレーニング効果は望めませんので、効率の良い体幹の使い方を学んでみましょう!

腹腔内圧を高めるためには

お腹の「圧」をコントロールするもの

少し前回の復習も含みますが、体幹の構造をもう一度おさらいしてみます。

体幹は平面ではなく「円柱」のような立体で構成されています。腹壁や背中の筋肉だけではなく、上部にあたる「横隔膜」、下部にあたる「骨盤隔膜」を含めて考えないと体幹としての機能が十分に発揮しづらくなります。

さらに細かくみていくと腹腔は、上は横隔膜、下は骨盤隔膜、背中側は多裂筋、そして横周りを腹横筋といった筋肉に囲まれています。

Daine Lee(2001)『ペルビック・アプローチ』医道の日本社 p52,53から引用

これら4つの筋肉がうまく協調しながら活動することにより腹腔内圧をコントロールできます。

逆にいうと、この4つの筋がユニットとして働けるような状態を作らないと、腹腔内圧を高めて体幹を安定させることが難しくなってしまいます。

腹腔内圧を高めるには

では、この円柱のユニットがどのように腹腔内圧を高めるのかを説明していきます。

前回のブログでも説明していますが、腹腔内圧は横隔膜の動きによって調整されています。

息を吸う時は、横隔膜が下降(収縮)することにより内臓を上から圧迫します。

この時、腹部を下から支える骨盤隔膜(骨盤底筋群)が内臓を押し返すことによって腹腔内の圧が高まります。

この「圧迫力」が椎体を支えて体幹の安定性を維持します。

森本貴義、近藤拓人(2018)『新しい呼吸の教科書』ワニブックスp46から引用

ちょっとイメージができない人は、注射器をイメージするとわかりやすいかもしれません。

下の画像のように注射器の先を塞いだ状態で押し子を押しておくと、筒内の圧が高まると思いますが

これと同じようなことが横隔膜が押し子と同じような働きをしています!

次に逆に息を吐くときはどうなるか?ですが、息を吐くときは横隔膜が上昇(弛緩)する必要があります。

そのため、腹腔の下部にある骨盤隔膜が横隔膜の動きと協働して上昇することに腹圧を保つことができます。

また、息を吐くときに肋骨が下方へ移動(内旋位)することにより、腹腔に圧を加えるので、

息を吐く時の腹腔内圧は、骨盤隔膜と肋骨の動きが必要になってきます。

https://www.burrelleducation.com/

このように、呼吸と連動するように横隔膜骨盤隔膜肋骨協調して動くことにより、腹腔内圧を高めることが可能となってきます。

腹腔内圧を維持するためには

では、この腹腔内圧を高めた状態を維持するためにはどうしたらいいかを説明します。

先ほど、腹腔内圧を高めるためには、呼吸と連動するように横隔膜と骨盤隔膜、肋骨が協調して動くことが必要と説明してきましたが、これらを維持するためには腹壁の筋肉が大切となってきます。

横隔膜が下降し、上から圧をかけ、その圧を骨盤隔膜が押し返すことによって腹腔内の圧が高まりますが、

このときに腹壁の筋群が使えていないと圧が保つことができず、圧が下腹部に逃げて(漏れて)しまいます。

また、腹横筋や内腹斜筋といった筋群は肋骨を下方へ(内旋位)に移動させるのに必要な筋群であるので、この筋群が働かないと息を吐くときに肋骨が動かずに、横隔膜が上昇(弛緩)しづらいといった状況にもなってしまいます。

そうなってしまうと、腹腔内圧が高められない状態になってしまうだけではなく、

下のイメージ図のように、肋骨は外旋位、骨盤が前傾位といった姿勢になりやすいです。

この姿勢になってしまうと、より腹圧が高めづらい状況になってしまうので、ほとんどの人が腹圧で姿勢を安定するのではなく、背中側の筋肉を使って姿勢を安定させようとします。

この固め方は冒頭の「2」の固め方であるので、特定の筋肉(脊柱起立筋や広背筋など)が過活動を起こしてしまうといったことに繋がります。

また、この姿勢だと腰椎であったり、股関節であったり、肩甲骨のポジションに影響を与えるので、肩が痛い、腰が痛い、膝が痛いと言った人は、もしかしたら腹圧が高められない姿勢によって関節の位置が影響を受け、結果的に痛みにつながっているケースが多くなります。

なので、このようなことに繋がらないためにも、腹圧を維持するためには腹横筋や内腹斜筋といった腹壁の筋群が重要となってきます。

「体幹機能」と「呼吸の状態」は繋がっている

今までのまとめをしていきます。

正しく「体幹」を使うためには、円柱のユニットで腹腔内圧を高めることが必要となってきます。

腹腔内圧を高めるには、呼吸と連動するように横隔膜骨盤隔膜肋骨協調して動くことにより圧をコントロールし、腹腔内圧を高めることが可能となってきますが、これらのシステムを維持するためには、腹横筋内腹斜筋といった筋群の働きも必要になってきます。

なので、腹筋運動をしてお腹をバンバン鍛えても、プランクといったいわゆる体幹トレーニングをしても、腹横筋内腹斜筋がうまく使えていないと腹腔内圧をコントロールできる状況を作れませんし、さらに横隔膜や骨盤隔膜といった円柱の上下の部位や肋骨の動きがうまく使えない状態でトレーニングしても腹腔内圧が高まりにくい状態なので効率が悪く、上体を起こす力や、プランクといった姿勢をキープするような能力は向上しても、「身体を連動させて動く」といったとには繋がりづらいです。

なので、まずは腹腔内圧がしっかりと高められるように、円柱のユニットをしっかり機能できるようにしていかなくてはいけません。

それは「横隔膜を使った呼吸がしっかりとできる」とイコールであるので、呼吸の状態がどういった状態かは大切になってきます。

以前のブログでも説明しましたが、呼吸の状態は色々な場面で影響を受けます。

生活習慣や食習慣、ストレスや環境などによって呼吸が乱れてしまうことで、結果的に横隔膜が使えない状況になってしまうと体幹機能もうまく機能しないことに繋がってしまうので、呼吸のコンディションを保つことは非常に重要となってきます。

なので、日頃から呼吸のエクササイズを行なって、呼吸のコンディションを保つことは健康にもパフォーマンスにも繋がってくるということになります。

まとめ

今回も呼吸の視点から体幹機能を考えていきました。

「体幹」って言葉はいろんな場面で使われていますが、どうやったら体幹が機能するかを理解してエクササイズを行なっている人は少ないと感じています。

呼吸の状態を向上させることは、体幹機能のベースを作ることにつながるので、今回の内容を参考に呼吸のエクササイズを導入してみてはどうでしょうか?

次回は、呼吸のエクササイズも含めて体幹トレーニングをどのように段階づけておこなっているかを紹介したいと思います。

【参考文献】

1.パトリック・マキューン(2017)『トップアスリートが実践人生が変わる最高の呼吸法』、かんき出版

2.森本貴義、近藤拓人(2018)『新しい呼吸の教科書』、ワニブックス

3.大貫崇(2019)「呼吸力」こそが人生最強の武器である、大和書房

4.坂井 建雄(2016)『プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第3版』、医学書院

5.大貫崇『臨床スポーツ医学』Vol.38.No3(2021-3)p254-259、文光堂

【合同会社noma】

都内や埼玉、神奈川を中心にパーソナルトレーニングを行なっています。

「なりたい自分、ありたい自分へ。」をコンセプトに、

  • トップアスリートからスポーツ愛好家まで、スポーツにおけるハイパフォーマンスを追い求める人
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を対象として、アスレティックトレーナーがトレーニング・リハビリテーションを通し、その人の「なりたい自分」「ありたい自分」に向けて共に試行錯誤しながら成長する場を目指しています。

nomaでは筋力や可動域向上や身体の使い方の改善といったスポーツのパフォーマンス向上はもちろんのこと、身体の悩みや痛み・不調に対して、エクササイズを通して「根本的な原因」にアプローチし、身体機能や姿勢の改善をしながら目標に向けてアプローチさせて頂きます!(お身体でお困りの方は相談から承ります。)

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