「ヒトの身体は左右非対称である(PRIについて)」No.9

こんにちは。アスレティックトレーナーの岡野です。

前回のブログでは、アスリートがトレーニングを行う上で最終的に「自分の身体を自分の思い通りに動かせる範囲を広げていく」ことがパフォーマンス向上や傷害予防において大切なことではないかという話をしました。

自分の身体を自分の思い通りに動かせない人は、

  1. 身体がリラックスすべき時に身体の力を適切に抜ける(休むべき時に休める)
  2. 身体の「揺らぎ」が確保されている(どちらにもいける状態にある)
  3. 動作中、重心を中心軸から動かさずに安定して動ける(揺らぎのなかを自由に移動できる)

ということができていないことが多いので、姿勢を保ったり、運動をしたりする時に

  • 身体を過度に緊張させてしまう(緊張したままになっていたり)
  • 特定の部位(筋や関節)に頼って身体を安定させようとする(姿勢を維持させようとする)
  • 特定の可動域の範囲で力の発揮や吸収を行おうとする

ということが多くなってしまう傾向があります。

そういう状態で運動を続けていると、結果的に特定の部位や運動パターンに依存してしまうので、目的や環境によっては「動きの再現性」や「動きの選択肢」といった能力が低くなり、パフォーマンスが思うように上がらない理由の1つとなります。また、特定の部位への負荷が多くなってしまうので、得意な姿勢や動きでは特定の部位が過活動になり、苦手な姿勢や動きの時には適切な力の発揮や吸収ができず、関節や筋により負荷がかかってしまって怪我や痛みの原因の1つになるのではないかと考えています。

そういったことにならぬように、1〜3といった要素をトレーニングによって獲得することが必要だと考えていますが、これらの要素は一般的に行われているウエイトトレーニングや体幹トレーニング、ストレッチといったアプローチだけでは、まだ「必要なピース」が埋まってくれないなと私の経験上感じています。

一般的に行われているウエイトトレーニングや体幹トレーニング、ストレッチといったアプローチによって目的とする動作に必要な筋力を向上させたり、必要な可動域を広げたり、動作の基本となるフォームを身につけたりすることによって、身体能力は向上し、運動能力も向上することができます。

ただし、それは特定の条件下での目的や環境による動作がうまくなっただけでのこともあり、どのような目的や環境によっても動作を「安定」させ、「揺らぎ」を維持し、その中で動ける状態を作れていたかというと、そうでないこともあります。(アスリートは競技の練習によって高めたフィジカル能力をうまく自分の競技動作に適応させていきますが、それができる選手とできない選手がいます)

というのも、その動作は目的を達成するために本来身体にとって適切な可動域の中で、正しい部位や運動パターンによって身体をコントロールして(制御して)行われていたかというとそうではないことが多く、今ある自分の揺らぎ(制限された揺らぎ)の中で、自分が身体をコントロールするのに得意な部位や運動パターンによって、うまいこと身体をコントロールして(調節して)行われていたのではないかと考えています。(制御と調整という言葉が適切かはわかりませんが、私のなかではこれがしっくりしました)

なので、そういう場合は身体の調子が良い時はなんとかなっても、身体の調子が悪い時にはパフォーマンスが落ちてしまったり、怪我に繋がってしまったりというように身体の調子や目的、環境によって適した運動が制御できていないのではないか。そう考えると、「揺らぎ」を確保し、「揺らぎ」のなかを自由に移動するためには、一般的に行われているウエイトトレーニングや体幹トレーニング、ストレッチといったアプローチだけではなく、必要となるピースを埋めるためにはもう少し別の視点で身体をみる必要があるのではないか、別のアプローチも必要ではないか。と考えています。

そのような考えのなかで「必要となるピース」はなにかというと、その選択肢の1つが

Postural Restoration Institute® (以下PRI)という教育機関が提唱しているコンセプトやエクササイズでした。

PRIのコンセプトやエクササイズはnomaで行うアプローチには必要不可欠なものなので、今回は私のなかで「自分の身体を自分の思い通りに動かせる範囲を広げていく」ために「必要なピース」の1つであるPRIというコンセプトを簡単に紹介していきたいと思います。

Postural Restoration Institute®とは

PRIは理学療法士であるロン ハラスカ氏によって、2000年にアメリカ合衆国のネブラスカ州リンカーンに設立された教育機関で、姿勢の適応、非対称パターン、多関節筋連鎖の影響を科学的に解明し、呼吸、筋運動学、神経筋の応用、姿勢の不均衡に関する知識と技術を最大限に高めたいと願う人々を支援するために、リソース、教育機会、患者ケアプログラム、研究に裏付けられた実践ベースのエビデンスアプローチを提供しています。1),2)

PRIでは、「ヒトの身体は左右非対称である」という事実をもとに、「ヒトは身体の左右非対称を前提にしながら、それらをうまく統合することによってバランスを保たれている」と考えられており、うまくバランスが取れている状態が崩れてしまって、歩行や呼吸、または回旋運動といった相反性運動がうまくコントロールできなくなると、左右のバランスが崩れてしまい、結果的に身体の痛みなどに繋がってしまうと考えられています。1 ,2)

つまり、身体を効率的にコントロールするためには左右非対称ということを理解した上で介入しないといけないのではないかということが言われています。

なのでPRIの考え方を学ぶ上では、この「左右非対称」と身体の捉え方がまずは大切になってきます。

ヒトの身体は左右非対称である

ここでやっとタイトルの回収ができました。笑

ここでは「身体の左右非対称性」に関して説明していきたいと思います。

PRIでは基本コンセプトの冒頭にこのように記載されています。

PRI Japanのホームページから基本コンセプトの全文を見ることができます。2)

人体は左右対称ではない。神経系、呼吸器系、循環器系、運動器系、そして視覚器等、身体の左側と右側は同じではない。これら器官は様々な場所に位置し、個々に責任、機能、そして需要がある。

https://www.posturalrestoration.com/japan/PRI%C2%AE%EF%B8%8E%E3%81%AE%E5%9F%BA%E6%9C%AC%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%82%BB%E3%83%97%E3%83%88

ヒトの身体というのは外見からみると左右対称のように見えますが、実は左右非対称の構造や機能をしています。

Human body structure set. Skeleton, muscular system blood system with arteries, veins, human organs, liver, brain, bladder vector illustration for medical anatomy, biology, science concept

例えば、内臓に目を向けてみましょう。心臓は左側にあり、それに伴って左の肺は2つの部屋で構成されており(容積は約450g)、右の肺は3つの部屋で構成されていて(容積は約500g)、右の肺の方が大きく、空気の入るスペースが広くなっています。その下にある肝臓は右側に、脾臓は左側に位置しており構造的に左右非対称となっています。

また、脳は右脳と左脳に別れておりそれぞれ得意とする機能をもちます。横隔膜は左側よりも右側の方が構造的に大きく、右側の横隔膜の下に肝臓があることにより右の横隔膜は呼吸をするための筋肉として活動しやすくなり、機能的にも左右非対称性が生まれます。

このようにヒトを外見だけではなく内臓や神経系などもふまえて1つのシステムとして捉えると左右非対称の構造や機能をしていることがわかります。

本来なら、このような構造的、機能的な左右非対称に対してヒトはうまいことバランスを保っていますが、片側を過剰に使用したり逆に不使用の割合が大きくなってバランスを崩すと、得意な姿勢や苦手な姿勢、得意な動きや苦手な動きへとつながり、身体を効率よくコントロールできなくなってしまいます。

このような状態が続くと、ヒトはより使いやすいものを使って運動し、苦手な姿勢や動きに対しては非効率的な動作で代償します。その結果、身体はねじれをおこし、特定の関節や筋などに過剰に負荷がかかることで、身体の問題へと繋がってきてしまいます。

PRIのアプローチ

左右非対称の姿勢によってもたらされる問題に対して、PRIではエクササイズや徒手療法といった方法を「呼吸」に重きを置きながら、左右の片側の過剰使用や不使用の割合を少なくし、身体のねじれといった身体の問題を改善していきます。(呼吸の大切さに関してはまた改めて話したいと思います)

呼吸を適切に行いながら、あまり自分の思い通りにできていない筋肉に刺激を入れ、逆に過剰に働き過ぎている筋肉を抑えるように筋肉のバランスを取り戻していきながら、各関節を適切な位置に戻し、エクササイズによって各筋肉や運動パターンを再教育をしていきながら、身体を元の状態に戻していくようにアプローチしていきます。

これらのアプローチによって、「身体の左右非対称を前提にしながら、それらをうまく統合することによってバランスを保たれている」状態を保つことによって、体幹機能が向上し、胸郭や骨盤を中心に正しい可動性や動作ができるようになってくるので、少しずつ自分の思い通りに身体を動かせるようになってきます。

PRP(Postural Restoration Provider)取得に向けて

私は、今まで2016年ぐらいからPRIのサイエンスを学ぶために講習会へと参加していきました。

実は、このPRIのサイエンスをより深く学ぶために、「PRI®︎認定プロバイダー PRP-Japan」という資格ができたことを受け、この度試験を受験する決意をいたしました!

コロナ禍の影響などもあり、第1回目の試験申し込みが2022年の10月に締切となっていて、最終的には2023年2月に行われるので、そこでしっかりと資格を取得できるように精進していきます。

もちろん資格取得だけを目指すのではなく、もっとPRIのサイエンスをしっかり学び、自分の中に落とし込み、今まで以上にクライアントの皆様に適切なアプローチができるようがんばっていきたいと思います。

まとめ

人の身体は複雑です。単純にこのトレーニングをしたから強くなった、身体の状態がよくなったというケースはあまり存在しません。その為、パフォーマンスを向上させたり、身体の痛みに対してアプローチするには、色々な「視点」や「選択肢」が必要になってくるのではないかと思っています。そういった中で、PRIの提唱しているコンセプトやエクササイズは、課題や問題点を解決するのに必要なピースを埋めてくれる1つの選択肢となり、運動療法の可能性を感じさせてくれます。まだまだ、私自身学ぶべきことはたくさんありますが、こういった考え方が1つの選択肢になるようにコツコツがんばっていけたらと思います。

参考文献

1)PRI本部ウェブサイト https://www.posturalrestoration.com/

2)PRI JAPANウェブサイト https://www.posturalrestoration.com/japan/home

【合同会社noma】

都内や埼玉、神奈川を中心にパーソナルトレーニングを行なっています。

「なりたい自分、ありたい自分へ。」をコンセプトに、

  • トップアスリートからスポーツ愛好家まで、スポーツにおけるハイパフォーマンスを追い求める人
  • 仕事や家事・趣味など、身体に対して日々安定したパフォーマンスを求める人

を対象として、アスレティックトレーナーがトレーニング・リハビリテーションを通し、その人の「なりたい自分」「ありたい自分」に向けて共に試行錯誤しながら成長する場を目指しています。

nomaでは筋力や可動域向上や身体の使い方の改善といったスポーツのパフォーマンス向上はもちろんのこと、身体の悩みや痛み・不調に対して、エクササイズを通して「根本的な原因」にアプローチし、身体機能や姿勢の改善をしながら目標に向けてアプローチさせて頂きます!(お身体でお困りの方は相談から承ります。)

ご興味を持っていただけた方は、下記から予約ができます。

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