こんにちは。アスレティックトレーナーの岡野です。
今回から、私がアスレティックトレーナーとしての活動歴が一番長いバドミントンのトレーニング関係の話ができたらと思います。
私は大学の時からバドミントンの競技に携わらせていただいて2021年時点で13年目となりますが、自分では野球の経験しかないのでバドミントンに関しては「シロウト」です。
しかし、選手の方のパフォーマンス向上やケガからの早期復帰、ケガの予防というサポートを行うにあたって、選手が望んだ結果になるようにする為にはどうすればよいのかというのをアスレティックトレーナーという立場の視点から色々と考えてきました。(詳しい経歴はこちらから)
「シロウト」という面で、選手経験からくる考えや動きの感覚であったり、経験者だからこそわかるイメージというものは分かりません。そこは選手や指導者の方々にわからないことは学ばせていただきながら、自分の知識や考え方を常々アップデートさせていただいていますが、身体の専門家としては「プロ」なので解剖学や生理学、運動学、バイオメカニクスといった身体や傷害、トレーニングについての知識をベースに変な固定観念を持たずに「どうすればより良い結果に繋がるか」を自分の立場から突き詰めさせていただいています。
結局スポーツを行う上で「カラダ」は資本です。それはバドミントンも例外ではありません。
バドミントンにおけるフィジカル能力が向上すれば、行えるスキルも幅も広くなり、行えるプレーも多くなります。
また、身体をケガしていたり、痛みがある状態が長く続くと、コンディションを保つことに時間を費やしたり、身体が痛いことを前提に動くので、限られた動きや質、強度の中での練習となってしまいます。
そうなってしまっては、いくら実力がある人でも自分の能力を十分に発揮できません。
こういったことを考えると、資本となる「カラダ(コンディション)」の状態を常に良い状態を保ちながら、いかに質の高い練習をしていくかを考えたときには、フィジカル能力を向上させたり、コンディションを安定させることも重要なテーマの1つとなってくるのではないでしょうか?
なので、フィジカル能力をどうやって向上させるかというのはすごい大切になってくるのですが、パフォーマンスはたくさんの要素が相互作用しあっているので、動作やカラダの適切な仕組みを理解しないと間違った方法や自分に合わない方法を選択してしまい、思ったような効果を得られなかったりしてしまいます。
しかし、「バドミントンで動くときに身体はどのような状態が最適で、どのように動けば効率的か」を感覚や経験だけではなく、解剖学や生理学、運動学、バイオメカニクスといった身体や傷害、トレーニングについての知識と一緒に突き詰めていけば、どういった要素が必要なのか、どういったトレーニングをやるべきなのかというのがより絞れてくるので、自分に合った適切なトレーニングを選択できることに繋がっていきます。
なので私はトレーナーとして「方法」よりも、「仕組み」を理解していくほうがフィジカル能力を向上させ、選手の方のパフォーマンス向上やケガからの早期復帰、ケガの予防というサポートを行うに大切なことだと感じています。
そこで、今回からは
- バドミントンに必要なフィジカル能力とは
- どんなトレーニングが必要か
- トレーニングで向上させたフィジカル能力をどうバドミントンへ転換させるか
といったことを整理していきますので、いつもと違った角度でバドミントンのパフォーマンス向上を考えていただければなと思います。
また、これを機に正しいトレーニングの知識など少しでもスポーツ医科学としての正しい情報をバドミントン界に広げていければと思います。
*スポーツ医科学分野も常に研究が進み、色々な情報がアップデートされています。数年前には定説だったものが「こっちの方がいいんじゃない?」とか、「こういった視点で考えた方がよくない?」ということも言われていますので、こちらでも情報を日々アップデートしていければと思います。
*今回の記事は約8000字あります。しっかり読みたい方はそのまま下へスクロールしてください。
【ざっくり読みたい方向け】
- フットワーク向上のためには年代や競技歴、競技レベル、現在の体力レベルや身体の状態、身体の使い方によって重きをおくべき要素の比重を変えながらトレーニングをしていかないと、高いレベルまで到達しない
- バドミントンは「移動」動作と「打つ」動作で構成されており、自分が打つ前に相手が打ったショットを返球するために必ず「移動」が必要となってくるため、フットワークは自分が試合を有利に進めていく上でとても大切
- フットワークでは「速く動くこと」が目的ではなく相手のショットに対して素早く移動し自分が正確にショットが打てるための体勢をとることが目的となる
- トレーニングでは「重心位置が身体の中心軸を保ちながら相手のショットや落下地点を的確に判断し素早く移動できる」能力を獲得することが必要
- そのためには「アジリティ能力」を正しく理解した上でトレーニングすることが必要
目次
フットワーク向上のためにトレーナーが考えること
今回は「フットワークの向上」をする為にはどうすれば良いかをトレーナー視点で考えていきたいと思います。
「フットワークを向上させるためにはどんなトレーニングをすれば良いか」
そのように考えた時は
- ウエイトトレーニングをやって筋力を向上させればいいか
- 股関節の可動域を向上させるためにストレッチが必要か
- ランジ動作を行えば良いか
- 体幹トレーニングで「体幹」を鍛えればいいか
- シャトル置きやフットワークの方法を変えてみるか
- フットワークの動作スキルを身につければ良いか
と、色々と考えられますが、
1つだけ言えるのは「◯◯をすればフットワークが向上する!」というようなものは存在しません。
どれか1つの要素だけでは高いレベルまで到達しません。「全て」の要素が大切となってきます。
何回も言いますが、パフォーマンスはたくさんの要素が相互作用しあっています。なので、フットワークだけでも色々な要素が関係していますし、年代や競技歴、競技レベル、現在の体力レベルや身体の状態、身体の使い方によって重きをおくべき要素の比重を変えていかないといけません。
そこで、自分の目的と現在地(自分の状態)を考えたときに「適切な方法を選択できるか」が大切となってきます。
細かくいうと、同じトレーニングでも負荷や頻度、順番などが変わってくると、獲得できる能力が変わってくるので方法だけではなく回数や時間などの「可変要素」と言われるものを調整していく必要があります。
例えば、スクワットといっても、スクワットの仕方、フォーム、重さ、回数、頻度などが変わってくると身体にかかる負荷や刺激も変わってくるので、目的にあうようにこれら「可変要素」を調整します。
なので、その時々で何が足りなくて(何を今やるべきで)どういう方法がいいのか、自分に適切な方法を選択しないと自分に合わない方法を選択してしまい、目的を達成できないということになってしまいます。
バドミントン選手において、トレーニングを行える時間は限られています。
その限られた時間に効率の良いトレーニングを行わないとせっかく費やした時間やお金がもったいないです。
そうしたことを避けるためにも適切なトレーニングを選択できないといけません。
その為には、
- バドミントンのフットワークとは
- どんな要素が必要となってくるか
- その要素の中で自分が取り組むべきものはなにか
ということの理解が必要となってきます。
バドミントンの競技特性だけではなく、
解剖学や生理学といったカラダの知識だけではなく、
トレーニングの方法や負荷設定などのトレーニングの知識だけではなく
全体像をある程度理解し、整理した上ではないといけないので
今回はまずは全体像を整理していきたいと思います。
まず、バドミントンを再考してみる
フットワークに必要な要素を考えるにあたって、改めてバドミントンの競技特性を考えてみます。バドミントンの競技特性を知ることによって、どんな目的で競技が行われ、勝つためにはどういう動作が必要となってくるかが整理できて、トレーニングの方向性が見えてくるので今回はいろいろな文献を参考にしながら考えていきたいと思います。
まず、「バドミントンはどんな競技か?」と一言で説明すると
バドミントン競技は、いろいろなストロークを正確に、かつ攻撃的に継続して打つことによって、対戦相手にエラーをさせるように仕向ける競技。1)
バドミントン競技は、様々なショットを用いて緩急のあるラリーを展開し、対戦相手の体勢を崩し得点を重ねていく競技である。2)
バドミントンは、テニスや卓球と同じ「地理的攻防分離攻守一体プレイ型」に分類されるスポーツで、攻撃と守備が一体となって展開されるところに特徴がある。すなわち、守りながら攻め、攻めながら守るとも言え、相手の守備範囲を超えてズレを突くことが戦術的な課題になる。また、お互いがラリーを分断しようと試みる一方でラリーを続けさせようとする「せめぎ合い」に、「攻守一体プレイ型」ゲームの面白さがあるとも言える。3)
といったことが書かれています。
バドミントンでは、相手は自分の体勢を崩しにかかるラリーを展開していくなかで、自分は体勢を崩さずにいかに有効打といえる正確なショットを行えるかが大切となってきます。
(もちろん配球などもも大切ですけど、ここではその話は専門外なので置いておきます)
スマッシュが速くてもネットにかかったりサイドアウトしたりといったようにコートに入らなければ意味がないし…
ロブやクリアがしっかり奥まで打てないと相手が有利になる可能性が高くなるし…
レシーブができても適切な位置に返せないと相手が有利になる可能性が高くなるし…
というように相手のコートに返すだけでは自分が有利になるラリー展開には持ち込めず、いかに相手が不利になるような場所へ色々なショットを「正確に」打ち返せるかが自分が有利になるラリーになるために必要になってきます。
ただ、バドミントンは「移動」動作と「打つ」動作で構成されており、自分が打つ前に相手が打ったショットを返球するために必ず「移動」が必要となってきます。
野球の投手のように、サッカーのPKのように、決められた場所から自分のタイミングで(全てではないでけど)自分の狙った位置に投げたり蹴ったりする競技とは違って、まずは移動から始まります。
この「移動」がフットワークにあたります。
相手が打ったショットに対して、シャトルがコートに落ちる前に到達できれば返球ができます。
到達するのが速く余裕があれば、打てる「ショットの選択肢」がある中で有効となるショットを選択肢し、自分が打ちやすい体勢でショットを打てる確率が上がります。このような状況であれば、しっかりとしたスキルがあれば自分の思った通りのショットを打てる確率が上がり、自分の優位なラリーを展開することができます。
到達するのが遅く余裕がない状態だと、打てる「ショットの選択肢」が限られた中でショットを選択肢し、返球するしかありません。そうなれば相手は限られた選択肢の中からショットを選択できるので、自分が打つショットの種類やコースが読まれやすくなります。
また、自分が打ちづらい体勢でショットを打たなければなくなったときには、「正確」にショットを打つ確率が減り、自分が思ったところにショットが打ちづらくなるのでミスをしたり、甘くなったりし相手が有利になる確率が高まります。さらに、無理な体勢で打っているので、特定の身体の部位にストレスがかかりやすく、ケガの原因にも繋がるかもしれません。
このように、バドミントンにおけるフットワーク(移動)というのは自分が思ったようなショットを打つために非常に重要な要素となり、さらに自分が試合を有利に進めていく上でとても大切な要素となってきます。
バドミントンにおけるフットワークとは
バドミントンにおけるフットワークが、試合を有利に進める上でとても大切な要素というのを説明してきましたが、ここからは、どのようなフットワークがバドミントンでは適切なのかというのを改めて考えていきたいと思います。
フットワークを簡単に説明すると
的確な打動作のためにコート内をすばやく動く効率的な身体移動の技術で、ホームポジションと打点位置の往復時間を短縮させることと、打動作が滑らかに行われるための足の構えに本質がある。3)
とされています。
ただ単に「移動」と言っても、陸上の100m走のようにA地点からB地点に向けてとにかく「速く移動できること」が大切な要素ではなく、A地点からB地点まで「素早く移動し正確にショットが打てるための体勢をとることできる」ことが大切となってきます。(極端な話、意図したショットが正確に打てればフットワークが遅くても問題ないと思われますが)
ですが、上記でも説明したように相手は自分の体勢を崩しにかかるラリーをしてくるなかで、自分は体勢を崩さずに移動することが求められます。
また、シングルスでは奥行きが13.4m、幅が5.18mと狭い範囲のコートで相手とシャトルを打ち合いますが、シャトルを打ち合うスピードも速いので、自分がショットを打ってから返球される時間も短いため、すぐに動き出さなければいけませんし、前後左右どの方向にも動かないといけません。
さらに、バドミントンではA地点からB地点に向けて、さらにB地点からC地点に向けて移動しなくてはいけないので「速く移動する能力」ももちろん必要ですが、プレー中は相手のショットに対してコートを素早く移動するために切り返し動作やジャンプ動作といった、減速、ストップ、再加速という「方向転換能力」の要素も素早く移動し、正確なショットを打つための体勢をとるために非常に重要となってきます。
こういったことを考えた上で、バドミントンにおけるフットワークを考えてみると
- フットワークをするあたって動き出しやすい体勢を作れる(姿勢)
- 相手が返球してくるショットを予測し、落下地点を的確に判断できる
- A地点から、B地点にいくまでの1歩目がスムーズにできる
- A地点からB地点に向けて移動するステップ(手段)が的確に選択できている
- A地点からB地点に向けて移動するステップ(手段)が的確に行える
- B地点に到達した時に、正確にショットを打つための減速、ストップ動作ができる
- 身体ブレずに正確なショットが打てる(打った後に重心が身体の中心で位置を保っている)
といったように1回ショットを打つだけでも上記のような局面が存在し、これらが適切に行えるようなフィジカル要素を獲得することが大切になってくるのではないかと考えることができます。
もう少しまとめると
「重心位置が身体の中心を保ちながら相手のショットや落下地点を的確に判断し素早く移動できる」
そういった能力を獲得できるようにトレーニングをしていく必要が必要なのではないかと考えることができます。
フットワーク向上に必要なフィジカル要素
バドミントンにおけるフットワークは、「正確にショットが打てるための体勢をとることできる」ために行うものではないかと説明しました。プレー環境下も含めてその目的を達成するために必要な要素を考えると
「重心位置が身体の中心を保ちながら相手のショットや落下地点を的確に判断し素早く移動できる」
といったフィジカル要素をトレーニングでも向上できるように考えて行わなくてはいけません。
もっとシンプルにいうと「アジリティ能力(俊敏性)」の向上です。
なので、
- ウエイトトレーニングするにしても
- ストレッチするにしても
- 体幹トレーニングをするにしても
- シャトル置きやフットワークなどをするにしても
- 動作スキルを獲得するにしても
ここの要素が外れないように、段階的にプログラムを作成しなくてはいけません。
そう考えたときに、アジリティ能力とは?ということがしっかり定義できていないと、トレーニングプログラムを作成する上で混乱してしまうので、ここで一度で説明したいと思います。
アジリティ能力とは
早速ですが、問題です。
以下の写真の①〜⑥の写真で「アジリティ能力」というものはどれでしょうか?
答えは2と5と6になります。
解説しますと、
「アジリティ能力(agility)」というのは
「刺激に対して反応し、素早く方向・速度の転換を行う能力(Sheppard and Young, 2006)」
という動作を呼びます。従って、2と5と6はそれぞれ光や相手の動きに対して反応し、動作を行なっています。
1と3と4は、
「方向転換能力(COD: Change of direction)」と呼ばれ、
「事前に決められた場所や空間に移動する能力」
と言われています。なので、あらかじめ自分が動く方向が決まっている場合はこのような動作と呼ばれます。
また、方向転換速度(CODS: Change of direction speed)と呼ばれることもあります。
この2つは似てるようで、少し違います。
それぞれオープンスキルとクローズドスキルに分類されるため必要となる要素が少し変わってきます。
なので、アジリティ要素をしっかりと向上させためには、速く移動できる能力であったり、切り返し動作やストップ動作などのフィジカル的な能力だけではなく、「認知・判断」能力が必要となってきます。(ココがすごい大切)
この能力が低いとコート内では素早く移動することができません。
そういった面も踏まえて、アジリティ能力の構成する要素をまとめてみると下の図のような感じになります。(図2)
細かく分けていくと、こういった図になります。
ただ、トレーナーとしてみると、適切な筋力やパワーを出すためには?適切な姿勢をとるためには?
などもっと考えなくてはいけないことがたくさんあるため、個人的にはもっと分類が大きくなってきますが、こういったイメージをもっていただくとよいかなぁと思います。
まとめ
長くなってしまったので今回はここまでにします。
次回に
- アジリティ能力に関係するそれぞれの要素の説明
- アジリティ要素を向上させ、フットワーク向上に落とし込むためにはどう考えるか
といったことをまとめていきたいと思います。
【参考文献】
1) 日本バドミントン協会:バドミントン教本基本編.ベースボールマガジン社,東京,2001.
2)清水幹弥:バドミントン競技経験者と 未経験者のスマッシュ動作中の運動連鎖に関する研究 ,東海大学スポーツ医科学雑誌 (33), 7-14, 2021
3)日高正博:バドミントンのショット(技術)の構造化の試み,宮崎大学教育文化学部附属教育協働開発センター研究紀要第23号,107−113,2015
6)Strength and Conditioning Journal,Volume 14, Number 2, pages 14-19
7)勝原竜太,ムーブメントスキルを高める,ブックハウス・エイチディ,2016年
【合同会社noma】
都内や埼玉、神奈川を中心にパーソナルトレーニングを行なっています。
「なりたい自分、ありたい自分へ。」をコンセプトに、
- トップアスリートからスポーツ愛好家まで、スポーツにおけるハイパフォーマンスを追い求める人
- 仕事や家事・趣味など、身体に対して日々安定したパフォーマンスを求める人
を対象として、アスレティックトレーナーがトレーニング・リハビリテーションを通し、その人の「なりたい自分」「ありたい自分」に向けて共に試行錯誤しながら成長する場を目指しています。
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